園長コラム「向き不向き」

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向き不向き、という言葉があります。
ある人にとっては向いている(≒得意な)ことが、他の人にも向いているとは限りません。そこで人間は自分の得意を行ないつつ、不得意を補ってくれる仲間と助け合いながら今まで生きてきたと考えられます。
私たちがスポーツ選手やその他記録を持つ人に賞賛や羨望の気持ちを持つのは、このような環境で生き延びたからかもしれません。

現在、保育・教育の分野では、向き・不向きについての考え方が昔とずいぶん変わってきています。
以前は得意な部分はとりあえず放っておいて、不向き(≒不得意)な部分の対策をして不得意の度合いを軽くするようにしていました。
ところがこれを長い目で見ると、不得意なことは一向に上達せず、今度は得意だったことも苦手になってしまうということが起こりました。これでは何のために我慢して不向きなことをしていたのかわかりません。

現在は得意なことに集中する時間をしっかりと取り、その分野が広がっていって不得意分野と出会う時に、その必要から不得意と向き合う、という方法が最も良いとされています。

得意なことばかりやらせて、不得意から逃げていたら最後は逃げ癖がつくのではないか、という心配を持たれるかもしれません。しかし好きなことを取り上げてしまったら、一体何を軸にして自己肯定感を持てるのでしょうか?
苦労するにも理由があれば頑張れますが、その苦労の理由に辿り着けるかどうかは、その人の好き・向いている・得意が土台にあってのことにかかっていると考えます。

藤井聡太七冠(2023年7月3日現在)は、5歳から将棋を始めて、まだ読み書きができないのに将棋の専門書を読み解いたそうです。知りたい、という欲求がそうさせたのでしょう。
その後も将棋教室に週4回通い詰め、起きている時間のほぼ全てを将棋の研究に費やすという様子だったそうです。

もし自分が親なら、これほどまでにのめり込む子供を見て、冷静でいられるか自信がありません。ひょっとすると「将棋ばかりしていないで外に遊びに行こうよ」と声をかけてしまったかもしれません。
ところが藤井七冠の親は息子の様子を見て、向いていることを見つけた我が子の得意に集中する時間として守ってあげなくては、と考えていたそうです。

大人が子どもにできることは数少ないが、その中で最も大事なのは子どもの邪魔をしないこと、と今井保育園は考えています。
子どもが集中している姿を見つけられたら、せっかく向いていることを子どもが見つけられたのだから邪魔をしてはいけない、とそっと様子を観察するようにしています。

大人の願望に振り回されないよう、大人自身も気をつけなくてはいけませんね。

さて私ごとですが、この6月に園長就任10年を記念して永年勤続表彰をいただきました。
これはひとえに現在に至るまでの今井保育園の園児・保護者の皆様、支えてくれる職員の皆のおかげと感謝しております。
私に向いていることなのかは日々自問自答するところではありますが、機会を与えられている間、子どもの未来のため、勤め励む思いでおります。
以上、お礼の言葉にかえさせていただきます。

園長 橋本貴志